教育にITを取り入れる流れは急速に進んでいます。
でもIT先進国が長い時間をかけて構築してきたのに比べ、日本では短期間に、そして文科省だけでなく経産省が主導してやっている巨大プロジェクトとなっています。
インターネットを使った授業の質はどうなのか、運営はどうなのか、健全な成長を阻害する要因はないのか、お上任せではなく、広く社会で共有して、本当に子どもたちのためになるように考えて参りましょう。

昨日の学習会の様子
https://ura-sta.blog.jp/archives/42997964.html 


◆報告*2月6日
「1人1台のタブレットで 教育はどう変わるのか?」

 ~なぜ、1人1台なのか?~ 
                
吉田雅人

 

お話した中から、以下の3点を柱にしてお伝えします。

 

()昨年12月のさいたま市「Kickoffフォーラム」(教職員研修)で、経産省官僚が基調報告!?


・基調報告された浅野大介氏は、2017年に経産省に「教育産業室」を立ち上げ、以降その室長としてGIGAスクール構想を牽引してきた「Key Man」です。


・その浅野氏がさいたま市教職員研修の「基調報告」を行ったことは、さいたま市では絶対にGIGAスクール構想を失敗させずに成功させるという「国」の意気込みを表し、また、さいたま市だけでなく、全国で進行しているGIGAスクール構想の本質を表していると思われます。
国策としての「教育のデジタル化」は、文科省、経産省、総務省が連携して進めているという事実を、先ずは認識すべきだと思います。


・文科省は、ハード面での整備に「4年」かけるはずのところを「1年」に前倒し、今年度中に達成するとしました。諸外国と比べると、「4年間」でさえ短すぎるのに、なぜ、これほどに急ぐのか?


・その背景には「Society5.0」があります。

Society5.0」とは?
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こうした課題が、諸外国に比べて圧倒的に遅れてしまっているのです。

そのために人材を育成すること、そして、学校教育に民間企業が参入するための道筋を作ることが、GIGAスクール構想に求められているわけです。GIGAスクール構想の背景には、こうした重要な国策があるのです。

 

()文科省の進めるGIGAスクール構想


・文科省のいう「GIGAスクール構想の目的」は、「多様な子供たちを誰一人取り残すことなく、子供たち1人1人に公正に個別最適化され、資質・能力を育成するための教育ICT環境を実現すること」。

そのために、2つのハード面での整備を今年度中にやりきることが目標とされています。

一つは「高速大容量の校内ネットワーク」。もう一つが「生徒1人1台の端末貸与」。


・文科省は学習場面を「一斉学習」「個別学習」「協働学習」に類別し、「1人1台端末」による「学びの変容」を、次のように考えています。
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(出典 文科省「GIGAスクール構想』について」)


・また、学習内容については「ステップ1」「ステップ2」「ステップ3」という段階を設けています。

「ステップ1」は、とにかく、すぐにでも端末を使おう、という段階。さいたま市の細田教育長は、「毎日、毎時間、タブレットを使おう」と力説しています。

「ステップ2」は、教科の学びを深める段階。

そして「ステップ3」では、教科ごとの学習を繋いで、社会課題の解決に生かした「STEAM教育」を提唱しています。

(STEAM」とは「Science,Technology,Engineering,Art,Mathematics」の略語)


・この経過の中で「デジタル教科書」も使われます。今のデジタル教科書は紙の教科書と同内容で、書き込みができたり、保存できたりする機能を備えています。


・経団連は、昨年11月に出した「提言」の中で、デジタル教科書の普及を阻んでいるものとして次の4点を挙げていることも見ておく必要があるでしょう。

   紙の教科書を基本とした併用制であること。

   デジタル教科書は無償給与の対象外であること。

   デジタル教科書について検定が行われない代わりに紙の教科書と同一の内容でなければいけないこと。

④デジタル教科書を用いた授業が各教科の授業時数の半分未満に制限されていること。


・このうちの④は、今年度中に撤廃・緩和されます。そして、来年度には、希望する小中学校にデジタル教科書を無料提供し、全国規模での実証事業が行われます。子ども達が「実証事業」の「実験」に使われることになるのです。

 

()経産省の目指す「未来の学校」

・経産省が担当するのは「未来の学校」への方向付けです。経産省は「『GIGAスクール構想』の上で描く『未来の学校』」という表現で、「GIGAスクール構想」を前提に「未来の学校」を構想し、推進しています。

・経産省のプレゼンの冒頭で、必ず使われる「ベン図」があります。
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・「子ども達は学校に行きつつ、家庭では民間教育を受けているのだから、学校教育に民間教育を導入すべきだ。」・・・という論理です。ですから、民間教育産業を育成する立場の経産省が参加するという論理です。でも、ここには欠けているものがある。それが、「産業界・大学・研究機関」からの要請を受けた学習テーマだとして、そうした「学び」を導入することが必要だとしています。


・こうして構想される「未来の学校」では、「学び」について2つの重要な課題を据えています。

それは、①学びのSTEAM化 ②学びの個別最適化です。「学びのSTEAM化」の実現には「学びの個別最適化」を進めることが不可欠になります。


・下の画像は、ある公立中学で「実証」済として紹介されているものです。
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(出典:経産省「『GIGAスクール構想』の上で描く『未来の教室』)


・ここでは、「学びの個別最適化」のために「EdTech(エドテック)」が導入されます。

EdTech」とは、「Education」と「Technology」の省略語で「デジタル技術を活用した教育技法」という意味だそうです。「未来の教室」のHPには、企業の開発したデジタル学習コンテンツが、「EdTech」として紹介されています。ここに登録されたものを活用して教科の学習を個別に進めることになります。

子ども達の学習履歴をビッグデータとして蓄積することで、AIの指示に基づいて個別の学習を進めることができるようになるのです。その結果、現行「標準授業時数」の半分くらいの時間で教科内容を習得できるというのです。


・すると、これまでの授業時間の半分を別の学習に使うことができるようになります。それで、「教科の学びをつなぎ、社会課題の解決に生かす学習」=「STEAM教育」が可能になるというわけです。では、実際の「STEAM教育」には、どんな事例が紹介されているのでしょう?

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(
出典:経産省「『GIGAスクール構想』の上で描く『未来の教室』)

殆どが民間企業と連携した「学び」です。


・こうして、経産省は、公教育に民間企業を参入させ、企業や研究機関のデータにアクセスした学びを実現して、Sciety5.0を支える人材を育成しようとしています。

 

私は、デジタル教材の全てを否定するつもりはありません。教師が、授業を構成する「一部分」として、いかに使いこなせるかが大切だと思っています。

そのためにも、私は「7つの批判的視点」が必要かと考えています。項目だけご紹介します。

 

1.デジタル画像中心の学習がもたらす弊害

人間としての「共感的配慮」「対人関係における感受性」が悪化する危険性

子ども達の心身の健康への脅威

リアルな外界への働きかけが減ることによる弊害

 

2.学習効果への疑問

 

3.「学びの効率化」で「学校」の役割が変質する?
・・・「全人格的発達」は保障されるのか?

 

4.教育内容の変質教育
(基本法から逸脱した「経済発展」に役立つ「実用主義」が教育内容を包み込む)

 

5.子ども達の学習履歴が「マイナンバー」に紐づけされ、大学入試、企業の採用や評価等にまで使われる!

 

6.教師の質の低下を招く危険性

 

7.新たな「負担」が家庭と自治体に押し付けられる

・端末更新時の費用負担 ・端末を校外で破損したときの修理費負担 ・デジタル教科書使用料の負担

Edtech登録教材の使用料 ・家庭の通信費負担 等々 

新たな費用をどこが負担するのか?決まっていないままの暴走 

 

◆高原史朗さんのお話
石田波郷の俳句を題材に、教室で対話を重ねながら、いろいろな意見を聞きながら、みんなが生き生きと学ぶ授業は、タブレット学習では出来ない楽しさに溢れています。

You Tubeのサイトで見たい方は
 ↓ 
https://www.youtube.com/watch?v=s2zUGRLgzZw