報告:枯れ木さん

第45回リレーカフェとして表題のテーマで学習会を実施しました。
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参加者はスピーカーの赤菱耕平さんを含め28名でした。
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赤菱さんは出版社勤務の後、独立し幅広く活動され、特に教育問題について熱心に取り組まれていらっしゃいます。
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限りある時間の中で、ご用意された内容は語り切れず、語れなかった最終部分は、赤菱さんのご厚意で頂いた資料の抜粋を含め報告とします。
「今教科書に何が起こっているのか
 教科書採択2020年と教科書問題のいま」

本年の教科書採択に至る歴史と、今回の採択の意味を丁寧に解説いただきました。
まずは、本年の教科書採択は、育鵬社版の伸長が警戒される中、新学習指導要領準拠で初めての、しかも道徳を含む本格的な採択と位置付けています。
1、 教育基本法とそれに伴う学習指導要領の改訂(改悪)の変遷
2006年、教育基本法は第一次安倍政権のもと、全面的に改訂(改悪)され、
2015年には道徳教科化を急ぐため一部改訂(改悪)された経緯があります。
2、 本来学習指導要領とは
1947年に学習指導要領(試案)として出され、「児童の要求と社会の要求とに応じて生まれた教科過程をどのようにして生かしていくかを教師自らが自分で研究して行く」という教員自らが研究するための手引書であった。
当然法的拘束力などあるはずもない。
3、 露骨な政権による教育への介入が始まる
その後1955年(鳩山内閣)には学習指導要領(試案)であったものから(試案)の文字が消え、更に、1958年(岸内閣)改訂では官報に告示し、指導要領には法的拘束力があるとした。

4、 安倍政権で教育への政治的介入が加速する
2006年の教育基本法改訂(改悪)で、「教育は国民全体に対し直接に責任を負う」との 規定がなくなり、「教育は法律の定めるところにより行われる」と書き換え、時の政権が教育の在り方を自由に決めることが可能となった。
5、 安倍政権は学習指導要領を国家主義的な色に染め上げることに腐心
2008年、09年改定時には、改訂が不十分であると右派勢力の不満が出たことに対し日本教育再生機構の八木秀次はパブコメのひな型を作り右派勢力に働きかけインチキ世論操作までして文科省に圧力をかけた。
結果、2008年改定案は異例と言われる修正が実施された。
例えば
小中道徳では「我が国と郷土を愛する」という文言が加えられた
小学国語では昔話、伝説などを読み聞かせ」を昔話や神話、伝説などの読み聞かせ」に書き換え
小学音楽では「『君が代』を指導する」から「『君が代』を歌えるように指導する」に変える などの修正を、右派の圧力により書き換えさせられる。

さらにさらに、中学公民では解説書で、学習指導要領にない「憲法改正手続」が登場
また、領土の記述を巡っては、「国の立場を言い切る指導」を強要している。
6、 安倍は国家主義への改悪から新自由主義的なカラーも持ち込み始める
2017年安倍政権で、教育目的を「個人の成長発達、人格の形成」から「急激な社会変化の中で(企業にとって)必要な資質、能力の育成」に転換してしまった。
7、 今年の教科書採択では意外にも育鵬社版教科書採択は多くの自治体で見送られる
(教科書ネット21の資料からの抜粋)
育鵬社などの採択結果
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各社は大幅にシェアを下げ消滅の危機。
8、 何故育鵬社版教科書がシェアを下げたのだろう
(教科書ネット21の資料からの抜粋)
産経新聞
高橋史郎氏談として
答申などに対して、説得力のある反論ができる委員がいなくなれば
現場の意向に流されやすくなる。首長らが、リーダーシップを持って
見識のある委員を加えるよう努める必要がある
朝日新聞
立正大学名誉教授・浪本勝年氏談として
検定強化で教科書の多様性は失われ、自虐的とされた記述も弱まり
批判のある育鵬社を選ぶ理由が薄れた。
教育委員の交代の影響もある。

つくる会元会長八木秀次氏談として
左派運動が採択の拒否権を持つような状況になった。
子どもと教科書全国ネット21鈴木敏夫事務局長談として
現場の教員や市民の声がボディーブローのように効いてきた。
9年間の市民運動の成果
右派、左派、運動当事者、はさまざまな感想があるようです。
9、 教科書採択が終わりその評価は
(教科書ネット21の資料からの抜粋)
①すべての教科書は、学問研究に根差した子供の「最善利益」に合致する教育の問題として論議することが重要。
②そのために、検定基準とそれに基づく検定、審査の扱いの問題を追求することを目指すことが求められる。
③採択の透明性の確保、公開性を求め、現場教職員の声を採択に反映させる事を求める努力が必要。
④根本には学習指導要領、解説書の問題など、教育政策に関わる根本問題がある。

10、講演を聞いて報告者の、私見、感想です。
以上のような経緯で、安倍政権は8年余り一貫して、禁じ手の教育への政治介入を繰り返し、今回の教科書採択で元安倍政権の教育を国家主義的カラーに染めるタスクは完了したように感じます。

今回の採択で、育鵬社版の教科書採択は多くの自治体で見送られてホッとしている部分はありますが、育鵬社以外の教科書も、周到に用意され改悪されてきた、拘束力のある指導要領、解説書(解説書には拘束力はない)を意識せざるを得なく、どの教科書も育鵬社化し、多様性が失われているという指摘もあります。
したがって、右派の教科書会社、日本教育再生機構などには打撃を与えたといってもいいと思いますが、公教育の右傾化はますます加速するように思います。

更に、文科行政に経産省が入り込み、教育現場に新自由主義カラーが蔓延し、現場教職員と子供達にさらなる被害が及ぶことが懸念されます。
警戒を緩めず、さらなる攻撃に備える必要があると強く感じました。

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赤菱耕平さんのtwitterとネット記事です。

Twitter→ @akabishi2




*今回の参加者の声*
学習指導要領、教科書攻撃、教育基本法改正、歴史公民教科書の変容が年代にも関連付けて提示され、配布資料も含めてとてもいい学びになりました。

教科書展示会とさいたま市の採択会議に出て思ったのは「どの教科書も大差ない。こんなセレモニーやらずに学校ごとの希望で決めればいいのに。」ということでしたが、そう感じたわけがわかりました。
つまりすべての教科書が(育鵬社も含めて)悪しき意味で横並びになってきた。社名がなければ区別がつかないかも。
だから私たちの視点を変えなくてはいけないということなのですね。

そして教科書が変容すればそれに準ずるワークブック等の副教材にも波及する。
子どもたちはテスト対策として表記通りにしっかり暗記しようとする。
ここが実に巧妙です。
ウイルスは消滅しかけているのではなく変異して拡散していた。
今後私たちはどうすればよいのか。
新たな課題を突きつけられました。

リレーカフェなどで「道徳」については
その狙いが「愛国」とは知ってはいたのですが
学習指導要領や教科書についても
国家統制が強力に計られ「臣民化」が
進められてきていたのですね。
背筋が寒くなりました。

若い人は多忙だろうと遠慮しちゃうのですが
学習会への参加を促したいと思いました。