講演会の様子や感想は→ 報告その1

報告:ガタコさん
山田さんの一言一言を全てお伝えしたいところですが、講演を聞きに来られなかった方達にも届けたい最低限の内容をわかりやすくお伝えできればと思います。
山田正彦法律事務所のご厚意により資料の一部を使用させていただいています。

=講演=
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◆こっそりと廃止された種子法、次は種苗法改定案

種子法廃止がモリカケ問題で紛糾している時期に十分な審議もないまま、十分な報道もされないまま国会で可決され、2018年4月に施行されました。

種苗法改定案(自家採種の一律禁止を含む)は、来年早々通常国会に提出されます。
日本人の主食である米・麦・大豆の国内生産が、このことによって、今後具体的にどれだけ大きな問題を抱えることになるか、法案の内容とこの事態に至る経緯を解説するところから始まりました。

野菜は種子法で指定されていなかったので、約90%はF1品種になってしまいましたが、主要穀物の米麦大豆は種子法によって守られてきました。
しかし種子法に代わって出来た「農業競争力強化支援法」は、2016年に批准されたTPP協定(「日本政府は投資家の要望を聞いて、それを規制改革会議に付託し…政府はその提言に従って必要な措置をとる」)を背景にしています。

そしてこの新法にはそれまで各地域で培われてきた育種知見を民間事業者へ提供すること(米麦大豆だけでなくあらゆる野菜の種子についても)や、1000種以上あるコメの銘柄を少ない品種に集約することが含まれています。

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◆背景にあるのは大企業のためのTPP

TPPを批准しているので民間事業者というのは国内外を問いません。
育種登録して維持するのには数百万から1千万円くらいの費用がかかると言われています。モンサントのような大企業は得た知見をもとに育種登録するのも、F1品種にして特許申請するのも容易にできます。

そうなると農家はモンサントにロイヤリティを支払わなければならなくなります。
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大企業はゲノム編集の米の種子や遺伝子組み換えの米の種子も作れるようになります。

このような状況の中で、更に「自家採種一律禁止」が盛り込まれた種苗法改定案が通ると、農家は毎年種子を買わなければならなくなります。種子の価格は4〜10倍になるといわれています。こうして農家は追い込まれ、日本の農業は種子の多様性を失い深刻な食糧危機に陥る危険性が高まります。

取り急ぎ「自家採種一律禁止」は止めなければ大変なことになります。海外では主要穀物(小麦)については農家は公共品種・自家採種が主流になっています(小麦の自家採種の割合はアメリカは3分の2、カナダは80%、オーストラリアは95%)。
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=質疑応答=

問―
このような日本の状況から生まれる遺伝子組み換え・ゲノム編集の農産物や食品への不安と農薬・除草剤の問題に対してどのようにこれから取り組んでいけばよいか。

答―
TPP批准後日本は急速に遺伝子組み換え農産物の承認大国(317種類)になりました。環境省はゲノム編集は自然界でも起きる突然変異と同じだから安全だとし、厚生労働省はわずか4回の審議だけで、今年3月には一部を除いて安全審査や表示義務なしで厚生労働省への届け出だけでゲノム編集食品・農産物の市場への流通を認め、10月1日から解禁されました。

◆なぜゲノム編集は危険なのか

イグナシオ・チャペラ教授の話では、遺伝子はそれぞれ連絡を取り合っているからそのバランスを壊すと各遺伝子が自分を守ろうとして毒素を出し、その結果全く異なったタンパク質が作られるとのこと。
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アメリカではゲノム編集は、New GMO(遺伝子組み換え)と捉えられ警戒されています。ゲノム編集食品・農産物が解禁になった日本では大豆・菜種・トウモロコシが輸入され、それらが油や液糖となって加工食品に含まれていきます。

◆農薬グリホサートの危険性と、逆行する日本の残留基準値緩和

遺伝子組み換え作物はそれとセットになっている農薬(除草剤)を被っています。最も多く出回っている除草剤がモンサントのラウンドアップで、その主成分がグリホサート(枯葉剤)。
遺伝子組み換えをしていない小麦にも収穫前に乾燥の手間を省くためと搬送時の防カビのために表面だけでなく芯まで浸透するラウンドアップを直接小麦にかけています。

それなのに日本は2017年12月にグリホサートの残留基準値を最大400倍(ひまわり400倍、そば150倍、小麦6倍)に大幅緩和しました。
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日本の大手3社の小麦粉からはグリホサートが検出されています。
今年、国会議員23人を含む28人分の毛髪検査でグリホサートが7割にあたる19人から検出。子供達が心配です。

◆世界では遺伝子組み換え食品などは規制や排除へ

グリホサートに発癌性があることは、モンサントは30〜40年前実証実験で知っていたという内部機密文書が出て、ラウンドアップが原因で癌になったことを訴えていたカリフォルニア州のジョンソンさんが2018年8月勝訴し、世界中で話題になりましたが、日本ではマスコミが話題にしませんでした。

参考:除草剤ラウンドアップ訴訟が米で急増、4万件超 独バイエル発表


世界では、遺伝子組み換え食品・ゲノム編集食品、そしてラウンドアップに対して規制や排除が進んでいるのに、日本は全く反対の動き。

食の安全という生きていく上で土台となる部分が軽視され、日本の食料自給率が低下していく現状に呆然としますが、諦めてはいられません。

◆アメリカの若い母親たちが立ち上がる

山田さんがアメリカで会ったゼン・ハニーカットさんはアメリカの若い母親達を繋げてMoms Across America という組織を作り、 非遺伝子組み換え(Non GMO)や有機(Organic)の食物が子供達のアレルギーや自閉症や多動症の改善に役立つことを訴え、大きな活動になっています。

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日本でも ゼンさんの来日を機にMoms Across Japan が作られました。

◆日本での課題

日本は「遺伝子組み換えでない」の表示がむずかしくなり、ゲノム編集食品が表示無しですでに流通が始まっている現況にどう対処していくかが課題です。
山田さんは生協のような民間団体が繋がって自主的な表示方法を考えていくことを提案されました。

◆学校給食に有機食材を使うことの意義

今回会場で資料として配った「メダカのがっこう機関紙71号」に、福島のNPOが調査した「有機食材続ければ体内の農薬大幅削減」という記事や韓国・フランス・イタリアで広がっている有機給食の情報が載っているので参加された方は参考にしてください。

山田さんも、実際に韓国の学校給食の現場を取材して、ほとんどの小中高の給食が無償かつ有機食材なのに感心されています。

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食の6分の1を担っている学校給食を有機にすることは子ども達のためにも、そしてそこから有機農業を広げていく上でも有効なことです。
日本でも武蔵野市、千葉県のいすみ市、木更津市 、兵庫県豊岡市、愛媛県今治市などが有機栽培の米や野菜を学校給食に取り入れる試みを実践しています。

◆私たちに出来ること

山田さんは精力的に地方に赴き、地方から連帯して食の安全を未来の世代のために確保しようと活動されています。
各都道府県で種子法に代わる種子条例を作った県は11(2019年7月現在、今年度中に少なくとも20の道県で制定される見通し)、そして種子法廃止直後4月に野党5党と1会派が種子法復活法案を衆議院に提出。山田さんは5月に「種子法廃止等に関する意見確認訴訟」を東京地裁に起こしました。種苗法についても動きを作ろうと考えているそうです。

巨大企業と闘う有効な手段として、固定種の保存管理とデータ登録をする広島県の農業ジーンバンクの例をあげられました。
米麦大豆だけでなく伝統野菜等の種子を保存、保管することを条例に明記した長野県の例も参考になります。
山田さんは、市民が動いてその地方の自主法となる条例を制定することができ、それは十分な権限を持つことを教えてくださいました。

おかしいと思ったことを身近な所でストップをかけたり、それぞれの地域にあったアイデアを条例に盛り込んだりするためにも、先ずは知ることから。

中身の濃い2時間半をありがとうございました。


参考:下記のサイトで山田さんの講演の書き起こしがあります
種子法廃止とこれからの日本の農業について 元農林水産大臣・山田正彦 
長周新聞
https://www.chosyu-journal.jp/seijikeizai/13829 


国内で販売される小麦製品の約7割からモンサントの除草剤「グリホサート」検出
ニコニコニュース
https://news.nicovideo.jp/watch/nw5874473