報告:山のぼるさん

去る4月18日(木)に、全国学力調査が行われました。
中3・小6合わせて212万人がこの調査を受け、先週末には、その「問題」も各紙に紹介されました。

参考:【全国学力テスト】問題・正答例・解説を公開…英語の音声データも
https://resemom.jp/article/2019/04/19/50212.html

私は、この「学力調査」には批判的ですが、調査の内容については強い関心があります。
その内容を見ると、文科省が、教科内容をどんな方向にもっていこうとしているのか、よく分かるからです。

今回の「中学国語」を一読して、驚きました。
①設問の教材に、文学作品と論説文がないのです。

更に、
②冒頭に、まるで「道徳」のような教材が扱われていたのです。   

 国語の問題から文学作品と論説文が消えた!?

昨年は計10題が出題されましたが、文学作品・論説文とも2作品ずつ、計4作品が使われました。
文学作品は、『少年』(芥川龍之介)と『宇治拾遺物語』(川端喜明・訳)。
論説文は、『おもしろサイエンス 紙の科学』(紙の機能研究会)と『文化庁国語課の勘違いしやすい日本語』(文化庁国語課)です。
(昨年までは「A問題」と「B問題」2通りの調査だったので、今年より出題数は多い)

ところが今年は、4題に使われている教材は、すべて出典なしです。
「出典」が明記されていないということは、文科省か、或いは文科省の委託を受けた企業か個人が創作した教材ということになります。

これは、危険です。

教材そのものを、政府の意図に従って、自由に作ることができるからです。
現政権下では、この「学力調査」は、全国の教育内容を先導する役割を担っています。

教材から「文学作品」と「科学的な論説文」が外されたことは、更に政府主導の教育内容改変が進められていくことを表していると考えざるを得ないのです。


これは、「道徳科」の教材か??

では、今年の「中学国語」の1にある2種類の教材を見てみましょう。
先ず、「海外に広がる弁当の魅力」です。
無題 - コピー (2)-1

見出しでも分かるように、この教材は「日本文化」が「海外に広がる」というテーマで扱われています。
そして、この教材の最後の段落では、

このように、様々な魅力をもつ弁当は、世界に誇ることができる日本の文化の一つなのです。

とまとめられているのです。
教材であれば、「弁当」の優れた性質を紹介するだけでも十分ではないのでしょうか?
どうして「世界に誇る」というところに落としどころを持っていく必要があるのでしょうか?
明らかに意図的です。

昨年から小学校で、今年からは中学校で「特別の教科 道徳」が始まりましたが、「道徳科」が批判されるのは、何より戦前と同じような「徳目」を、子ども達に押し付けてくるからです。

中学生に強制される「徳目」は22項目。
その中に「優れた伝統の継承と新しい文化の創造に貢献するとともに、日本人としての自覚をもって国を愛し、国家及び社会の形成者として、その発展に努めること」という項目があります。


日本は素晴らしい! 世界に誇れる日本文化!

これが、基調になって知らず知らずのうちに、子ども達の心に偏狭な「愛国心」を植え付けていくことになりかねないのです。

では、「中学国語」の1で扱われている2つ目の教材を見てみましょう。
無題 - コピー

ここに掲載された、文科省作成の「みんなの短歌」も、極めて意図的です。
 新しいノート教科書取り出して背筋伸ばして始まりを待つ

 玄関の鏡の前でもう一度前髪笑顔ボタン笑顔と

 春風がいつもの道を駆け抜ける皆の足取り自然と軽く
多分、今の中学生が素直に読めば、しらけた気分になることでしょう。
にも拘わらず、「設問三」では、この3つの短歌から一首を選び、
「その短歌を読んであなたが感じたことや考えたことを、【選者より】を参考にしながら」、
「条件1 選んだ短歌の中の言葉を取り上げて、想像できる情景や心情を書くこと」
「条件2 条件1で想像した内容について、あなたが感じたことや考えたことを具体的に書くこと」という二つの条件に従って書くことが求められているのです。

「こんなふうに感じる生徒は、僕の周りには殆どいません。こんな生徒がいたら気持ち悪いです。」と書いたら、どのように評価されるのでしょう?

今年の「全国学力調査」を見てみると、いよいよ「道徳」が「国語」の内容に入り込んできたな、という危機感を抱いてしまいます。

厳密に言葉を読み取り深い理解を育てたり、考え抜いた真実をひたすらに書いたり・・・・・・という国語の本質はどんどん後景に押しやられています。

文科省によって母語としての国語が危機に晒されているのです。

微力ながら、文科省主導の「言語教育」に抗っていきたいと思います。