山のぼるさんの子育て目線の教育コラムです。

先日、来年度から使用される中学校道徳教科書を採択した委員会の会議録がHPに公開されました。

◇さいたま市「教育委員会会議録」(8月2日・臨時会)   
2018-10-15_10h15_16
 
問題が多い教育出版が採択されるのではないかと危惧し70人が傍聴し、入れず帰った人もいました。
結果は「学研みらい4、教育出版2」となり傍聴人から拍手が起きたそうです。

 「会議録」が公表された今、改めてその記録を読み、討議はどこまで尽くされたのか、どのような理由で「学研みらい」が採択されたのか整理してみました。

◆さいたま市の教科書採択システム

*市の教育委員は5名。それに教育長を含めた6名で教育委員会が構成されます。この6名が討議を経て多数決で教科書を採択します。

*教育委員会は、討議・採択にあたって、以下の3つの資料を参考にします。

特に、2.の選定委員会からの推薦と、3.の中学校からの推薦は、充分に尊重される必要があるものです。

1.「調査専門員長」からの調査研究結果・・・検定を通った道徳教科書8社のそれぞれの特色が報告されます。
「調査専門員」は6名。専門員長の中学校長と5名の中学教諭で構成されます。

2.「選定委員長」からの調査研究結果・・・2種ないし3種の教科書がその理由も合わせて推薦されます。

「選定委員」は6名。選定委員長は市の職員である学校教育部長、保護者の代表2名(いずれもPTA協議会から)、小学校校長会と中学校校長会から各1名、教育研究会から1名(中学校長)という構成です。

推薦された教科書は、「東京書籍」「学研みらい」「廣済堂あかつき」の3種でした。

3.「指導1課長」から各中学校(56校)の調査研究結果・・・各校から2種ずつ推薦されたものが集計され報告されます。その「推薦理由」はペーパー資料として配布されます。今回の集計結果は以下の通りでした。

・東京書籍:17校 ・学校図書:6校 ・教育出版:19校 ・光村図書:13校 ・日本文教:15校 ・学研みらい:12校 ・廣済堂あかつき:30校 ・日本教科書:0校

◆選定委員会と中学校からの推薦を踏まえた討議

約2時間の中で、教育長は、何度か、討議すべきテーマを投げ掛けています。
「会議録」から2ケ所引用します。

1.東京書籍に心情円ということで例えば1年生最後のページに心情円という円があり、二つの円を重ねて可視化しようというものですが、こういったことについては賛否があると思いますが、委員の皆様のお考えをお聞かせいただきたいと思います。(会議録p.13)

2.もう一つ委員の皆様に教科書の形態についてご意見をいただきたいのですが、ノートが別冊になっているものについてはどうでしょうか。(会議録p.14)

「2.」では出版社名は出していませんが、これは、実質的に、選定委員会から推薦のあった「廣済堂あかつき」に対する評価を問うものです。
選定委員会は、「廣済堂あかつき」の推薦理由の一番はじめに「廣済堂あかつきの優れている点は、『読み物』と『道徳ノート』の2冊で構成されており、書くことと話すことの両方を通して道徳的思考を深めるよう工夫されている点」を挙げているからだと思われます。

ここでは教育長の提起を受けて、「このノートを書くのは負担かと思いました」「教科書の本文の前後にふんだんに『考えてみよう』という設問があったり、ノートが付属して記載を埋めていく形だったり、(中略)至れり尽くせりのワークブック的な教科書が本来あるべき道徳科の教科書なのかなという大きい問題があるかと思います」など、別冊のノートに対する批判的な意見が出されています。

「廣済堂あかつき」は、30校から推薦のあった教科書です。
それだけに、「廣済堂あかつき」が採択されなかった理由を明確にしてゆく上でも貴重な議論だと思います。

昨年の小学校道徳教科書採択では、選定委員会が推薦した教科書がすべて無視され、また75%の小学校から推薦のあった教科書を不採択にした理由もいっさい語られないままでした。今年の討議は私達にも納得のいく内容を持っていたと思います。

◆道徳教科書採択について噛み合った討議がされた
 
もともと、道徳が「特別の教科」にされたこと自体、重大な問題です。
しかし、その方針に基づいて教科書が採択されるのであれば、8社の教科書からどのような質の物を採択したら良いのか、きちんと考えられ、討議されなければなりません。

この点でも、昨年の小学校道徳教科書は、「教育出版」を採択する明確な理由が曖昧なまま採択されました。

9月の市議会で、この点を突かれた教育長は「十分に議論された」として、「教育出版」を採択した理由の第一に「指導の狙いがはっきりしている」という趣旨の答弁をしたのです。確かに「教育出版」は、最も「狙いがはっきり」明記された教科書です。

では、「狙いがはっきりしている」ことは、道徳を学習する子ども達にどんな影響を及ぼすのでしょう。
子ども達は、教科書や教材の冒頭に書かれた「指導テーマ」を知った上で授業に臨むことになります。
この「指導テーマ」が、いわゆる「徳目」です。
文科省は、これを「内容項目」と呼び、小学校高学年では22項目が決められています。

いくつか挙げてみましょう。
「くじけずに努力する」
「誠実に明るい心で」
「礼ぎ正しく真心をもって」
「法やきまりを守って」
「国や郷土を愛する」

このような特定の価値観に基づく「徳目」が、暗黙のうちに子供たちに浸透し、内面化してゆくことになるのです。

では一体、今年の中学校道徳教科書採択では、こうした重要な点は、どのように討議されたのでしょう。
私が「会議録」を見た限りでは、4ページにもわたり、こうした点を巡る発言が記されています。
順次、いくつか抜粋してみます。
T委員:
極力、言葉は悪いですが余計なおせっかいが少ないもので生徒を予定調和の結論に誘導しない、本文の書きぶりがニュートラルである、そういう観点で選んでいくのが好ましいのではないか・・・

教育長:
その途中に設問なりが非常に観点が限られたところでまさに誘導するような設問があったりとか、(略)予定調和的なものがあったりするような教科書から、資料文だけ出してあとはできるだけ深く自分の頭で考えようという教科書までバラエティに富んでいると思います。((略)こうしたことが教科書採択の試金石になるかと思います。

T委員:
道徳科が他の教科と大きく異なる点の1つは、子どもが教科に対して、大人に都合のいいことを押し付けられるのではないかと子どもが警戒心を持つのではというところがある(略)道徳の教科書はあくまで考える素材の提示、先ほど教育長がおっしゃったような、なるべくでしゃばらないというか、投げかける形を子どもがどう受け止めるかというその余地が大きいものがいいのではないかと思います。

O委員:
中学校の発達段階ではある程度形があって、その上でそれを踏まえて後は自由にというのがいいのではないかと思います。・・・

教育長:
O委員がおっしゃっているような考えるヒントを大きく示していることについてはどこも検定教科書でございますので、大きく外れてはいないと思いますが、その後の設問の方向性をかなりがっちり示している教科書と自由度が与えられていて子どもたちが考えるヒントがいっぱい与えられている教科書というところの観点はあると思います。
       
◆今年の教科書選定のまとめ

実に核心を突いた議論がなされています。
そして、この議論は、冒頭で選定委員会からあった「学研みらい」の推薦理由を受けた形にもなっています。
また、学校推薦の少なかった「学研みらい」が、どうして採択されたのか、という疑問にも答える内容になっていると思われます。

以上、私は大きく2点において、今年の道徳教科書を採択した教育委員会を高く評価するものです。
勿論、今回の採択を巡っても、いくつかの課題は残していますが、それでも、敬意を表して良い結果だったと思います。

◆今、子ども達の教育現場は危機的な状況

来年には「新学習指導要領」に基づいて新しい小学校教科書が全教科で採択されます。

特に、英語を巡っては、小学校から大学入試まで、大混乱が始まろうとしています。
さいたま市では2016年に、小学校1年から「GS(グローバルスタディ)」という名での「英語教育」が始まっています。
「新学習指導要領」を待つまでもなく、さいたま市の小中学校の「英語教育」は、滅茶苦茶な状況です。

「教育」は、決して子ども達と教師と保護者だけの問題ではありません。
子ども達の健全な成長を保障することは、すべての大人達に託された責任です。
教育現場の状況に目を向け、自分たちの問題としてゆくことが、私達に求められていると考えています。